狙われた ハッピーデート?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


       



そりゃあ尋常じゃあないほど寒かった、昨年ほどではないにせよ。
というより、もしかしてこれは通年のことだったかも知れないが。
桜の季節と前後して、それは強い突風が吹き始め、
それとともに結構な花冷えが襲い来て。
極めつけには、花散らしの無情の雨も冷たく降りそそぎ。
初夏を思わせるような陽気で油断させといて、
半袖まで引っ張り出させた春めきが一転、
カーディガンだけでは頼りないと思わすほどの、
大した小寒が襲い来たこの春だったが、

 “何とか晴れてくれてよかったことvv”

しかも雨上がりという余寒もなしの、
すっきりと晴れ渡ったいいお天気に恵まれて。
街なかに一人、人待ち顔で立っている身でありながら、
ついついハミングさえこぼれ出しそうなほど、
浮き立った心持ちでいる彼女であったのは。
幸先がいいというか、
デート日和につい浮かれてというか、
それともそれとも、
前日まで そりゃあハラハラしたその反動というものか。

 【 勘兵衛様へ。
  一緒のお花見は出来ませなんだが、
  その代わり、別口の桜を見に行きましょう。】

草野さんチの七郎次お嬢様が、
ちょっぴりドキドキしつつも、
そんな健気なメールを、
愛しいお人の携帯目がけて送信したのが。
まだまだ東京の桜は咲き誇っていた、
先週の初めごろのこと。
…と言っても、
都心に限ってもまだまだ十分間に合うだろにと、
乙女の無垢な想いへツッこむなかれ。
お嬢様の恋い偲ぶ御方は、
それは苛酷なまでにお忙しく、
しかもチョー不規則な生活を送っておいでと来ており。
どうしても逢いたいです、
少しでいいから明日逢えませんか…などと
渾身の眸ぢから添えて言ったところで、
訊いてはもらえぬ、いやさ、
聞いてやりたくとも聞けぬ身の上の御仁なものだから。
どこかへ行きたいとか、何がしたいという要望があるときは、
ずんと早い目に言っておかねば、
せめてもの調整さえつかぬため…であり。
そして案の定、
毎年少し遅咲きの
学園の西門の八重桜が咲き揃った頃合いになっても、
愛しの君からの返信は来ず。

 『あんの罰当たりな鈍感中年が〜〜っ!』
 『〜〜〜〜〜っ!!』

心優しいお友達らが、
バズーカランチャーと模造刀とを、
可憐な風貌には似合わぬ勇ましさにて、
それぞれに抱えて駆け出しかけたの、
必死に止める側に立ち。(怖い怖い…)
お忙しいのは 最初
(はな)から承知、
“済まない、無理だ”という、
心苦しくも寂しい返信をさせなかっただけマシですと、
はんなり微笑った乙女の我慢を、
通りすがりの女神様が拾ってくださったものか。

 【 明後日の土曜、休みが取れた。】

朝も早よからという、
急ぎで無いなら立派に常識はずれな時間帯に、
そりゃあ手短な一言のみというメールが届いたその途端。
すっかりと蕩ろけ切ってのことだろう。
その日は雨上がりだった朝の、
きんと冴えて冷たかった空気も何のその。
のぼせたように頬を赤らめの、
されどその青玻璃の双眸は目映いほどに輝かせ。
優美で優しい蠱惑をたたえし、
ばらの蕾のような緋色の口許には、
止めようもない甘美な微笑を始終浮かばせ…という。
普段でも瑞々しくも麗しい存在である白百合様を、
神々しいまでの美しさに甘く温めた、歓喜の威力の物凄さ。

 『こりゃあ何がどうしたと訊くまでもありませんね』

遠目に見つけたそれだけで、全てを承知し苦笑した、
ひなげしさんのお言いようへ、

 『………。(頷、頷・微笑)』

紅ばらさんもまた そりゃああっさり、
うんうんと頷き返したほどの判りやすさであったとかで。


  そんな経緯を経ての今日、
  約束した2日後、土曜を迎えた訳であり


昨日何とか雨にはならずで通した空は、
今日はすっかりと晴れ上がっていて。
このまま時間が過ぎれば、
そのままどんどんと、
初夏めいた陽気にさえなりかねぬ、
すこぶるつきの上天気を今からでも思わせて。
それを思ってのこと、
胸元辺りと裾とに切り替えのあることで、
フレアも利いた薄い更紗のエスニック風ミディア丈のワンピースを、
前ボタンを全開にしオーバーブラウス代わりにしており。
その下には…逆にシャープな印象さえする、
白地に様々なバリエーションの青を生かしたストライプが走る、
スレンダーなシルエットも大人っぽい、
シックなデザインの七分袖ワンピースという取り合わせ。
大きめの木のビーズをアクセントにした、
チョーカーのようなネックレスは、
もっと夏向きかなぁと思わなくもなかったが。
少し開けたスキッパータイプの襟元から、
ちらりと覗く白い肌に素朴な濃色がよく映えており。

 「………見違えてしもうたぞ。」

待ち合わせの場に駆けつけた年嵩の恋人さんが、
一旦大きく通り過ぎかけ、
それへ やややと感じた当人の気配に気づいて、
振り返ったそのまま…唖然としかけたほどだったとか。
髪型だっていつもとさして違わない、
サイドの髪を編み込みにして
カチューシャのようにしただけのシンプルなそれだったし、
メイクもうっすらとした清楚なもので留めており。
だというのにこの反応とは、

 「勘兵衛様には、
  いつものような恰好がお好みですか?」

いかにも今時の風体、
時に、お辞儀しただけでも下半身がどうなるかというほどの、
きわどい超ミニ丈のスカートを、
平気で履いて出て来るよな現役女子高生のそんな発言へ、

 「いやいや…。」

あれは勘弁してほしいと言えば、
それもまた彼女が落ち込むのではなかろかと、
言いかけてから気がついて、
語尾を誤魔化す壮年殿の戸惑いようがよほどに可笑しかったのか、

 「判っておりますよ。ほどほどに、でしょう?」

楽しそうにくすすと微笑ったお顔も甘やか。
大好きなお人へ向けるにはこの上ない、
上等上出来なお顔になるのも無理はなく。
何よりもご当人が嬉しくってしょうがないからこその、
幸せのソースがふんだんに掛けられたホットケーキのようなもの。
さあさ参りましょうねと、
七郎次が選んだデートコースへ
テラコッタのレンガを模した石敷きの舗道から踏み出した二人を。
周囲に居合わせた、
それなりの二人連れや仲間内だろ若者らのグループが、
まるで 今人気沸騰のユニットのプロモビデオでも流れていたかのように、
視線を奪われてたそのまんま、歩み出した彼らに合わせ、
追いかけかけてしまったほどであり。

 「…何だろな、今の。」

何とか我に返れたものの、それならそれで、
ちぇーっ、すげぇイカしたのにな カノ女…とかいう心情を隠して口にした男へ、

 「どっかの面接じゃない?」

それか、モデル事務所の社長とこれから撮影の打ち合わせとか…と。
年齢差こそあれ、そちらも見劣りは全くしない、
なかなかのイケメンだった精悍な壮年の方をばかり、
ついつい見とれていた彼女の方もまた、
何食わぬ風を装いつつ、どこか曖昧に意見を合わせて。
微妙なざわめきがいつもの雑踏の喧噪へと戻るのに、
少しばかりの間が要りようだった、Q街の駅前広場だったようである。





  
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  *何やら意味深なタイトルですが、
   さほど深刻なお話じゃありませんのでご安心をvv
   え? いつものテイストでも、十分物騒ですって?
   あららんvv


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